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no.13:あなたは誰

「あたしの時間はまだ30分残ってるから。駅に行って、適当にふらついてくる」

僕に買ったばかりのノートを押し付けて、チカは言った。
教室の閉所が決まってから、チカは何かと教室の最寄駅に行きたがる。
チカと僕にとっては第二の遊び場であり、暇を持て余す楽しさを共有できる唯一の街だった。

「明日から別の人生歩むみたいな顔しないで。先生もそんなこと望んでないよ」

チカのスカートがひらひら揺れる。
くすんだクリーム色のスカートが風で波打つと、ふたりでよく入り浸っていた喫茶店のカーテンを思い出す。
あの店も、いつの間にかひっそり姿を消していた。

「位置関係が一瞬でわからなくなって、近くにある物を急に見失う。自分の認識って案外脆いよね。宛にならない」

チカはバッグを抱えなおして、駅に通じる裏道へと脇目もふらずに進んでいく。
パンプスの踵がぐらつく。それでも踏ん張って、前へ。
よく知った街中でも、チカはまた迷子になろうとしている。

「このままだと、サトルが知らない人みたいに見えて……声をかけられなくなるかも」
寒さのせいか、チカの声は震えているようだった。

2/19/2025, 10:40:50 PM