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お題:君に会いたくて

 夜遅くにインターフォンが鳴った。『こんな時間に誰だろう?』と少し不審に思いながらも玄関へ向かう。ドアを開けると、そこには七海サンが立っていた。
「七海サン! どうしたんスか? 今日は任務だったんスよね?」
「ええ。ひどい現場でした……」
 いつもの様に淡々と話しているようだが、心なしか疲弊しているように見える。
「そうだったんですね。お疲れさまです。ここで立ち話もなんですし、上がっていきますか?」
「いや、それは結構です」
 俺の提案は即答で却下された。
「じゃあどうしてここまで? 疲れてるでしょう?」
「……君に会いたくて来ました」
「え?!」
 俺の聞き間違いかと思った。
「どうも気が滅入ってしまって。そうしたら、何故だか君の顔が見たくなったんです。こんな時間に迷惑だとは思ったのですが、どうしても会いたくて……気がついたらここに来てきました。どうかしていますよね」
「全然! 迷惑なんかじゃないです! むしろ、辛い時に会いたいって思ってもらえて嬉しいです。だってそれって頼ってくれてるってことでしょ?」
「そう……なんですかね?」
「そうです」
「では、きっとそうなのでしょう。また今度、何かあった時には頼っても?
「もちろん構いません! じゃんじゃん頼ってください!」
 そう胸を叩いて元気よく答える。
「ふふ、よろしくお願いしますね。さて、君の顔を見たらなんだか気が晴れた気がします。こんな時間にありがとうございました」
「どういたしまして! ……七海サン、本当に上がっていかないの?」
「すみません、明日も朝から任務なんです」
「そっか。それじゃあ仕方ないですね。明日も頑張ってくださいね!」
「ええ。君のおかげで頑張れそうです。本当にありがとうございました。それでは失礼します」
 一礼して、そう言いながら去って行く七海サンの足取りは、ほんの少しだけ軽くなったようだった。
 俺が七海サンの辛さを少しでも和らげることができたのなら、そんなに嬉しいことはない。いつだって頼ってくださいね!

1/19/2024, 2:16:26 PM