k.3

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何でもない冬の日
今日は小雨が注いでいる
タワーマンションのベランダで寒風に吹かれて冷めたコーヒーに唇をつける
そこからはほんのりとした苦さ以外に何も感じ取れない
ありきたりで真っ黒な夜空
唯一光る月も細くて見えるのがやっとだ
まるで世界から突き放されたかのように
僕の頭はもう腐れ落ちたのかもしれない
空になったカップを脱いだ革靴と手紙から少し離れたタイルの床に放り投げる
大した音もせずに陶器が砕ける
周りを見回す
高めの塀に手を置いて
少し助走をつけて足をかける
あの頃大好きだった公園の鉄棒を思い出す
それでも体は前のめりになる

5____塀をつかむ手をほんの少し緩める
4____まぶたの力を抜く
3____これでよかったかなんて
2____分かりきったことだ
1____もう……
0____“何もないから”

目を開けるといつもとは逆さの景色が見えた
だけど世界は何も変わりゆくことはない
零れる涙一粒もない乾いた瞳孔がとらえるものに最早価値なんてないんじゃないか
そう思えた
真っ白な頭と脱力した体に衝撃が走る
体がコンクリートに沈む感覚がする
その苦痛には冷静でいることすらも憚られる
それなのに憔悴した体だけは心地よいといっている
そして
だんだんと
いしきが
とおのく…
まわりは……
あかに………
つつまれ………
せかいが…………
そまっていく……………
そして…………………………………
めを……………
と……………………
じ………………
た____

3/7/2024, 12:16:31 PM