そう、これは、俺が学生だった頃の話だ。その頃はちょうど夏休みに入ったあたりで、夏の日差しが眩しかった。その日は一段と暑くて、空は青くどこまでも澄んでいて、入道雲が大きくあった。太陽の光は俺の肌を突き刺し、地面からは陽炎が。そんな中、俺は外出していた。ちょうど、好きな作家さんの本の発売日だったのだ。だから俺は、普段から乗っている錆だらけの自転車にまたがり、本屋へ向かっていた。
本屋へ行く途中、俺は奇妙なものを見た。ビー玉のような、水玉のような、無色透明なガラス玉。それは野球ボールほどのサイズがあり、なんと、宙に浮いていたのだ。俺は、不思議に思って好奇心で近づいた。近くで見ると、若干、赤紫のような、赤黒いような、そんな色が混ざっていた。太陽の反射がそのガラス玉をキラキラと輝かせていた。俺は、あまりにもそのガラス玉が綺麗で、綺麗で、無意識にそのガラス玉に向かって手を伸ばしていた。だが、あと少しでガラス玉に届きそうなところで、待ったが入った。
『待って。それは触らないほうがいい。』
そう言われ、声の聞こえた方向に顔を向けると、1人の男がいた。その男はこちらに近づいてきて、俺の、もう少しでガラス玉に触れそうになっている手を掴み、引っ込ませた。そうすると、彼は優しさを漂わせた胡散臭い笑顔でこう続けた。
『これに触ったら地獄に墜っこちてしまうからね。』
高身長で茶髪、牛乳顔負けの色白肌。包帯がところどころに巻かれているが、砂色の外套と瑠璃色のブローチのついたループタイをつけている。甘くて、優しい声色をし、笑顔をその整った顔に貼り付けた彼。不気味だった。だが、それと同時に綺麗だった。全体的に透明感が強い彼が、太陽の光であらわになり、はっきりと、俺の目に存在を焼き付けている。神々しさまである彼に、俺は目が離せなくなった。俺が何にも言えず、ただ突っ立って彼を見ていると、彼はそのガラス玉に触った。そして、そこにそっと、口付けをした。チュ、とかわいいリップ音がした後、そのガラス玉は割れた。太陽の光を乱反射させ、彼の顔を無作為に照らす。美しかった。その場の視界に映る全てが。全てが、彼を引き立て、彼の本当の美しさを引き出していた。
『今度からは、怪しい物には近づかないように。』
彼は俺の口に人差し指を当て、去っていった。俺は、何もかもを忘れ、ただ、呆然と立っていた。
7/18/2025, 3:57:47 PM