喜村

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 夏にキンキンに冷えた炭酸は、とてつもなく旨い。
 お金はないけれど、俺はコンビニに立ち寄り、君の大好きな炭酸水を買った。
 年上の彼女の君。学生の俺と社会人の君。
 仕事が終わる頃に最寄駅に迎えに行き、最寄駅付近のコンビニで、お疲れ様とドリンクを差し入れするのがルーティーンだ。
「あちぃ……」
 コンビニで買い物を済ませ、屋根はある日陰に入るものの、外気温はめちゃくちゃ暑い。
「あ、待っててくれたのー?」
 スーツ姿の彼女が改札口から出てきて、俺はパアッと太陽よりも明るく輝く。
「暑かったでしょ、迎えにこなくても大丈夫なのに~」
「彼氏ですから!」
 彼女は、クスッと笑って見せた。続けて、俺はさっき買った炭酸水を渡す。
「はい! お仕事お疲れ様!」
「ありがとう! 喉乾いてたんだ!」
 彼女は、そう言うと、炭酸水をグビッとあおった。
 その姿を見届け、俺も一緒に買った飲み物を飲む。
 しかし……
「ぬっっっる!!!」
 声を出したのは俺だった。
 炭酸水を飲んだ彼女なら、なおさらぬるいとなると不味いだろう。
 申し訳なさそうに俺が彼女を見ると、君は無口なまま笑顔になっていた。
 ぬるい炭酸であることは間違いない。
 多くを語らない無口の君を見て、俺もつられて笑顔になった。


【ぬるい炭酸と無口な君】

8/3/2025, 10:22:58 AM