突然だが、俺は人為的な灯が苦手だ。
夜の公園を不気味に照らす街灯、自動販売機の主張するかのようなライト、ばか眩しいネオン街…
だけど、そんな自分でも落ち着ける灯があったりする。
「………先輩、まだいたんですか…?」
俺は、いつもの場所でぼんやりしていたら、これまたいつも通りの流れで、よく世話をみてやっている後輩がやってきた。
屋上に吹きつける風が、目の前の少し茶色がかった黒髪を揺らしていた。
「ていうか、そもそもそこは自分の場所だったんですけどね。」
少し拗ねたように言いながら、俺の隣の、柵の前にやってくる。
「ごめんて、」
「あんま謝る気無いですよね……」
呆れたように呟かれ、そういえば、と話かけてきた。
「なんで、毎日業務後に屋上に来るようになったんですか?」
「んー……ここからみる街の灯が、好きなんだよね。」
街の灯り、とオウム返しをする声にこたえるように話し続ける。
「そう。街灯とか単体で見るのはなんか嫌なんだけど、こうやって上から大量の灯たちをみてると、あー、今日もどっかで誰かが生きてんだなって安心すんの。」
あの灯の下には、一人ひとりの生活がある。
「独り身だから、寂しいんじゃないですか〜?」
隣のこいつも、下のきらめきを見ながら発する。
「そうかもな〜」なんて言いながら、隣をチラリと見やる。
実は、一つだけ嘘をついた。
屋上から見る景色が好きなのは本当だけど、俺が、一番好きなのはそこじゃない。
「……………」
一番好きなのは
隣のこいつの瞳に反射している、どこまでも透き通ったきらめき、だ。
その美しい瞳に、俺だけを映してくれないかな、なんて。
安っぽいラブソングみたいなセリフを吐き出す。
この世の中の全てがきらめいて見えていたあの頃は、美しい恋、なんてものに憧れていたのに。
今ではくすんだ不毛な想いを抱くので精一杯だ。
きらめく、夜9時東京の街には受け入れられない想いを背負い込んだ俺は、輝きの傍観者になるしかないんだろうな。
「先輩、もう肌寒いんで帰りましょう。」
そう言われ、こっちを向いたため、目が合った。
きらめく瞳に映る自分は、どんな灯に照らされようと、惨めな臆病者だろうな。
俺はきらめきの影に隠れるしかなかった。
きらめき
9/4/2024, 3:54:49 PM