無駄に装飾品の多い窓から月を眺める男が1人。産まれた時から彼の運命は決まっていた。
貴族の第一子として跡継ぎする未来。それしか無かったのだ。着飾られた服、整えられた髪、自由の無い、部屋。自室と言えども牢獄と同じだった。
小さい頃、小学校の帰り道。送迎ではなくどうしても他の生徒と一緒に徒歩で帰りたいという意志を聞きいれてもらって帰っていたあの道の途中、いつも1人の女の子が公園でブランコに乗っていたのを𓏸𓏸はふと思い出した。
『こんなとこでなにしてるの?』
『…かえるいえ、ないから』
『……いっしょにくる?っていいたいけど、ぜったいお母さまにゆるしてもらえないや…ごめん』
『…じゃあちょっとだけいっしょにあそんでよ』
『もんげん、あるから…10ふんだけしか……』
『いいよ、でも』
『……?』
『まいにちあそぼう!!』
そう言われて、下校の途中10分間だけいつもあの子と遊ぶようになっていた。規則や言い付けに雁字搦めにされていた𓏸𓏸にとって何だか悪い事をしている気分で、でもそれが楽しくて、小学校を卒業するまでずっと毎日10分。
『もう卒業だね』
『…𓏸𓏸君、どこの中学行くの?』
『∅∅中学校』
『……どこそれ???』
『県外の私立だよ。もう小学校入った時から決まってた』
『…なんか』
『なに』
『………楽しい?』
『え?』
『それ、楽しい?』
『それっ、て、』
『親の言う事ばっか聞いて。楽しいの?』
『…………』
『いつか迎えに行くから、その時までに楽しいかどうか答え出しといてね』
『え』
『楽しくなかったって言う答えが出てたら、一緒に着いてきて』
『ちょ、待って…』
そのままあの子はどこかへ行ってしまって、それ以来何度も公園に通ったけど出会えることは無かった。…なんて、懐かしい思い出に浸りながら今日もカーテンを閉め、ベッドに寝転ぶ。
目が覚めたらまた、何も無い1日が始まってしまうのか。
深夜、突如ガラッ!と音がして、𓏸𓏸は眠たい目を擦りながら窓の方を見た。
満月の月光に照らされながら、ヒラヒラとマントを靡かせて窓の縁に立っている誰か。
「おはよ、𓏸𓏸君」
「…………××、ちゃん…」
「答え、聞きに来た」
「……そんなの」
あの時、聞かれたあの時から決まっている。
𓏸𓏸は××の手を取る。2人は満月光る夜の闇に消えていった。
『月に願いを』
5/26/2024, 10:25:12 AM