「仕事だよ!」
と怒鳴りつけてやりたくなったのをなんとか堪えた。ICレコーダーをこちらに向けるこの女も、仕事なのだ。
煌めくイルミネーション、チキンの匂い、子供やカップルの歓声。そんな浮かれた空気を背に、一人寒空に肩を竦めていたら、声を掛けられた。
「今夜はクリスマスですが、貴方はどう過ごされますか?」
くたびれたスーツにビジネスバッグを抱えた男に、どんな答えを期待しているのか。ここ数年ケーキもチキンもシャンパンも買ってない。
それとも嫉妬と僻み根性丸出しの答えをすればいいのか。などと思っていたが、不意にあるものが目について、刺々しい気持ちが抜けた。
「……」
「あの、すいません……アンケート」
「手袋したらいいのに」
「――え?」
「雪の中継とか見てて思うけど、なんでこの寒い中で素手なの?」
「えっと……」
「あげる」
「え?」
駅のコンビニで買った、開けたばかりのカイロを押し付ける。変な奴だと思われるだろうけど、どうせもう会う事も無いのだ。構いはしない。
「今夜は帰って飯食って寝ます。以上」
少し気恥ずかしくなって、くるりと振り返ると足早にその場を離れた。
女の手にあったあかぎれが、あまりに痛々しかったから――。
百円以下でサンタになれるのなら、安いものだ。
END
「クリスマスの過ごし方」
12/25/2023, 3:15:57 PM