わをん

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『好きな本』

こどもの頃に読んでいた絵本が好きだったけど、いつの間にか無くなっていた。こどもの頃に遊んでいたおもちゃも気に入っていた服も気づけば家からなくなっている。
母にどうして勝手に捨ててしまうの、とは聞いたことがない。一度似たような質問をして、だってもういらないでしょと答えられたことがあるから。もういらないのは母の都合だ。少しずつのこれはおかしいが積み重なってこの家を早く出たいになっていった。
一人暮らしをしたいという私を母は引き止めはしなかったけど、周りには不満を漏らしていたようだ。どうして直接言わないの、と思ったけれどあの母だからこの娘になったのだろう。結局聞かないままに時は過ぎた。
本屋に入ってあの頃の記憶を頼りに絵本を探してみると、私の好きだった本は今もまだ売られていた。手にとって眺めるけれど本の端々はきれいなまま。結局元に戻してその場を去る。私の好きな本がもうこの世にないことを、母が謝る日は来ないように思う。

6/16/2024, 4:02:07 AM