喜村

Open App

 恋をした。初恋だ。
 初恋は実らないと言う。
僕の場合も、そうなのかもしれない。

 同じクラスの女の子。
背が小さくて、中学生なのにツインテールなんかしちゃってて、回りから、あざとい子、と半分いじめみたいなことをされている、とても可愛らしい女の子である。
 最初は恋だなんて思わなかった、ただ可愛いな、と、思っていたくらい。

 体育祭の終わり、彼女はみんなの打ち上げに、一人だけ声がかからなかったらしく、後ろの窓際の席で、ただ座っていた。
「ユウカ、先に打ち上げ会場行っちゃうよ~」
「うん、すぐ行く~」
 それだけ返して、教室には僕とその子だけになる。彼女は僕の方には目をくれず、ただぼんやりと外を眺めていた。
「ワタナベさんは、行かないの?」
 意を決して、僕は声をかけてみた。
すると、ようやくこちらに顔を向ける彼女。
「……私は呼ばれてないもの、私の分は人数に入ってないよ!」
 少し高い可愛らしい声で返してくれた。
「全員強制参加じゃないのか~、じゃぁ、僕も行かないことにしようかな」
 そう言って、僕はスマホをタップする。その行動に、大きな彼女の目が更に大きく丸くなっていた。
「……なに?」
「あ、いや、そんな簡単に断っちゃうんだ、って」
「ワタナベさんだけ呼ばれてないから行かないとかおかしいし、乗り気でもなかったし」
 そこまでいうと、彼女はボロボロと泣き始めていた。
「えぇ!? 僕、なんかした!?」
「ユウカちゃんは、優しいね!」
 泣いているのに笑顔の彼女。眉毛はハの字で口角は下がっているはずなのに、笑顔にみえた。
 僕はこの時、その不思議な感覚に陥る。
可愛らしい、だけじゃくて、守ってあげたい、側にいてあげたい、と。
 ひとしきり泣いた彼女は、はー、と息を吐いて口を開く。
「ユウカちゃんが男の子だったら、惚れちゃうところだったかも」
 ごめん、僕はそんな君に惚れちゃいました。
「これ、打ち上げの変わりにはならないと思うけど、のど飴あげる」
 彼女は、飴を渡してくれた。ゆずのど飴、すぐに袋をあけて舐めてみる。
 甘酸っぱくて、爽やかな味。僕はこの胸のときめきを落ち着かせるため、一つため息をついた。



【ゆずの香り】

12/22/2022, 12:35:07 PM