カガミ

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アイスを落とした。
ただのアイスじゃない、全て味の違う3段重ねのアイスだ。購入して2秒後に落ちた。当然1口も食べてはいない。
「あ…その…」
キッチンカーの店員さんが気まずそうに笑顔を引きつらせる。それもそうだろう、客が目の前で商品を落としたらかなり居た堪れない気持ちになる。私が店員なら100%固まる。先程まで和気あいあいと話していた周囲のお客さんも静まり返ってしまった。
「おねいちゃんだいじょうぶ…?ぼくのアイスはんぶんあげる…?」
気まずい空気が漂う中で、幼い男の子の声が私の耳に届いた。声のした方に振り返るとお母さんと一緒にアイスを食べていた男の子が私に食べかけのアイスを差し出してくれていた。
「…!坊主それはお前さんのアイスだ!ねえちゃんには俺のをあげるぜ!まだ口つけてねぇからよ!」
「わ、私のもどうぞ!2段目はスプーン入れてないですよ!」
「いえいえ!皆さん!次は僕が購入する番ですからぜひお姉さんの分も僕に買わせてください!」
「お客様方!むしろここは店員である私にもう一度お姉さんのアイスを作らせてください!今度は!カップで!」
男の子の提案を皮切りに、おじさん、女子高校生、男子大学生が次々に声をかけてくる。さらには店員さんまで加わってきた。
「「それがいいそれがいい!」」
私以外の全員の声が一致する。
「よかったね!おねいちゃん!」
男の子が眩しい笑顔でこちらを見上げた。
「…アリガトウ」
羞恥心が限界に達して真っ赤になる私は、喉から何とか言葉を絞り出した。
みんなに見守られながらアイスを受け取りその場を去る。
楽しみだったはずの3段アイスは涙の味でほんのりしょっぱかった。

5/3/2023, 9:40:59 AM