目が覚めると僕以外の人間がいなくなっていた。
テレビには誰もいないスタジオを映っていて、ラジオは無音とノイズを流し続けている。まるでついこの前まで人がいたかのように。世界は静寂につつまれていた。うるさいのは嫌いだったのに、今は沈黙がとても怖かった。
外に出てみて、少し歩いてみてもやはり誰もいない。誰もいないはずなのに動き続ける電車を見ると、もしかしたら僕がいなくなったのかもしれないと思った。ゲームのバクのように、寝ているときにどこかをすり抜けて来てしまったのだろう。
このままだと困るな、と思った。
今日はあの子の配信があるんだ。こっちじゃきっと映らない。ガタンゴトン、ガタンゴトン。ノイズのない町に音が響く。そういえば今日は電車のゲームだったっけ。ガタンゴトン、ガタンゴトン。流行りの脱出ゲームだ。ガタンゴトン、ガタンゴトン。あのゲームも人がいなかったな。ガタンゴトン、ガタンゴトン。あれ、なんでこんなに音が近いんだろう。ガタンゴトン、ガタンゴトン。なんで僕は線路の上にいるんだろう。
目が覚めると、布団の上だった。テレビには美人なアナウンサーが映っていて、ラジオは饒舌な芸人の声を流している。世界は喧騒に包まれていて、僕の嫌いな世界に違いなかった。
やけに首が痛い、寝違えたみたいだった。
7/11/2024, 2:19:57 AM