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#生きる意味

ギィー···

重い錆び付いた音を発てながら、扉が開いた。
どうやら先客がいるらしい。

まだ日が暮れると寒い4月下旬の事。
いつも一服するのに最適な廃ビルの屋上、


その手すり柵の向こうに佇む青年。
とりあえず、ポケットに入っているタバコを取り出し

安っぽいスナックのマッチで火をつけた。
タバコを吸い込むと同時にマッチの匂いが鼻を突く。

肺いっぱいの空気と一緒に煙を吐き出す。
あぁ、至福の時だ。


『旨いんですか?』
俯きながら下を眺めていた青年から問いかけがあった

チラリと視線を寄越しながら
「最高だよ」と


それから少しの沈黙のあと彼はぽつり、ぽつりと語り始めた。仕事が辛いこと、恋人と別れたこと、

未来が不安すぎて、どうすればいいのか解らないこと
生きている意味がわからなくなったことeat...。


顔を上げた青年は迷子の子どものような目をしていた。とりあえず、こっち側に来てほしいなぁ

何て思いながら、二本目のタバコに火をつけた。
そういえば、旨いかを聞くぐらいだから···

「ねえ、タバコ吸ったこと無いの?」
『·····ないです』 

「こっちおいでよ。物は試し吸ってみ?」

手招きすれば少し戸惑いは見せたが、こちら側に戻ってきてくれた。

あれだけ心の内をさらけ出した癖に警戒した猫のように恐る恐る近づいてくる様が何だか可笑しかった。


ほらっと、タバコと一緒にマッチを渡すと上手くマッチに火が灯せず途方に暮れた顔がまた可笑しく、


仕方なしに、火をつけたタバコを渡したら思い切り吸ったらしく盛大に噎せていた。

『ごほッ、ごほッ、うぇッ。美味しくない!!ウソつき』

腹がよじれるかと思うくらい笑った。恨みがましく
見ていた青年も途中から一緒に笑っていた。


「はぁ~、生きる意味なんてなくていいんだよ。先ばっかり見るから不安になる。まずは、足元見とけ。転ばないように!!それから、酸いも甘いも経験できるものは全て試してみろ。法に触れること以外はな!!」

そう言ってクロネコ青年の頭を乱暴に撫でまわし、
名刺だけ手渡してその場を後にした。






あれから5年、何気無く付けたテレビの向こう側にあの時の青年がいた。

イタリアで有名な靴職人として取り上げられていた。
彼なりの生きる意味が見つかったらしい。

4/27/2023, 1:29:11 PM