いぐあな

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300字小説。不思議な文具店。

手帳

 ふと立ち寄った文具店。シックな棚にシンプルなペンや手帳が並んでいた。
「いらっしゃいませ」
 黒縁眼鏡を掛けた老年の店長に声を掛けられ焦る。
「すみません。特に買うものは……」
「そうですか? その手帳は貴女に新しい手帳を買って欲しいようですけど」
 店長が鞄を指す。
「自分に書かれた予定は捨てて、貴女に新しく踏み出して欲しいと」
 手帳を取り出す。そこには先日、別れた彼とのデート予定がカレンダー欄にいくつも書かれている。眺め、小さく息をつく。
「新しい手帳を下さい」

 家に帰り、買ったばかりの手帳にカバーをかける。古い手帳は……
「彼は私を捨てたけど、彼から貰った貴方は……」
 私を大切に思ってくれた。そっと棚にしまった。

お題「カレンダー」

9/11/2023, 11:16:17 AM