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『私、メリーさん。
 今、○〇駅にいるの』

 スマホのLINE通知に、不穏なメッセージが表示される。
 どうせ友人のイタズラだろう。
 いつもなら乗ってやるのだが、いかんせん今は忙しい。

 私は昨日、探し求めていた黒魔術大全をついに手に入れたのだ。
 これからこれを読んで、悪魔召喚の儀の方法を調べなければいけない。
 だからLINEなんて見ている暇なんて無いのだ!
 というわけで無視。

 私はスマホを放り出し、続きを読もうとして――
 ブーブー
 すぐにスマホが震える。

 目線を向ければLINEの通知。
『私メリーさん。
 今、××スーパーの前にいるの』

 近所には××スーパーは確かにある。
 おそらくそのことを言っているのだろう。
 リアリティを出すために出したのだろうが、今の私にはどうでもいいこと。
 それくらいじゃ私の気持ちは変えられない。

 友人よりも黒魔術。
 これ常識。

 私はすぐに本の続きを読んで――
 ブーブー
 またスマホが震える。
『私メリーさん。
 今、△△公園にいるの』

 ここまで来るとさすがにイラっと来る。
 確かに△△公園はある。
 だから何だと言うのだ?
 しょうもないイタズラに私の時間を使わせようと言うのか?

 既読が付かないのだから気づいてないと考えるのが普通だろうに、相手は何を考えているのか……
 こんなくそムカつくLINEは初めてだ。
 私は決めた。
 絶対にLINEは開けな――

 ブーブー。
『私メリーさん。
 □□アパートの前にいるの』
 □□アパートだって!?

 私は戦慄した。
 確かに□□アパートに住んでいる。
 だけど、ここに引っ越したのは昨日なので、仲のいい友人もここにいることは知らない……
 というか、前のアパートは黒魔術の儀式をしようとして一昨日追い出されたばかりで、友人は引っ越したことすら知らない。
 なのに、私がここにいることを知っている……?

 ということは、このメリーさんは友人のイタズラじゃなくて……
 ストーカー!?
 怖さよりも、怒りが湧き上がる。
 ストーカーのような社会のゴミは、私が悪魔様の生贄にしてやる!
 私は放り投げたスマホを拾い、LINEを開く。

『おい、ストーカー野郎。
 お前に言いたいことがある』
『私、メリーさん。
 123号室の前にいるの』

 あくまでも私の呼びかけには応じないらしい。
 だがそれでもいい。
 既読は付いているのだから読んだはずだ。

『返事しないのならそれでもいいさ。
 その扉を開けてみろ。
 後悔するぞ』
『私メリーさん。
 あなたの部屋の前にいるの』

 鍵とチェーンをかけていたのだけど、どうやったのか入ってきたらしい。
 扉を開ける音はしなかったが、部屋の前に誰かがいる気配はする。
 あれ、もしかして本物のメリーさん……

 まいっか、どっちでも。
 やることは変わらないしね。

『そっか入ってきちゃったんだ。
 そのまま部屋に入りなよ』
 私はメリーさんにメッセージを送る。

 すると先ほどまで鬼の様に来ていたメッセージがピタリと止む。
 おやおや、どうしたのかな?(すっとぼけ)

『どうかしたの?
 メリーさん?
 あたしの後ろに立つのがゴールでしょ?
 さあ、早く入ってきておいで』

 既読が付く。
 だが状況に変化はなし。

『もしかして怖気づいた?
 そ・れ・と・も……』
 既読。
 そして部屋の前に誰かが息を飲むのが分かった。

『気づいちゃったのかな?
 あなたを生贄にしようとしていることに』
 部屋の前で、ガタっという大きな音がする。
 メリーさんも驚くことってあるんだね。

 私はメリーさんがどう出るのか、ワクワクしながら待つ。
 そしてすぐ、LINEの通知が来た。

『私、メリーさん。
 123号室の前にいるの』

 逃げやがった!!
 あいつ、私にさんざん迷惑をかけておいて逃げるだと。

『逃がさない』
 メッセージを送ると同時に、私は玄関に向かい外に出る。
 どこだ。

 スマホが震える。
『私メリーさん。
 今、△△公園にいるの』

 公園!
 逃げ足の速い事だが、まだ追いつける距離。
 私は生贄のメリーさんを確保すべく、公園に全力疾走する。

「生贄の子羊ちゃん、逃さないからねー」
 
 ◆

『メリーさん。
 ごめんね』

 あの後私は反省した。
 いくら部屋に勝手に入って来たかと言え、少々事を性急に進めすぎた。

『私、あのメリーさんに会えると思ったら興奮しちゃってね』

 そう、私は興奮しすぎた。
 目の前にやってきた哀れな子羊に……

『今度、メリーさんが来たらちゃんと怯えて見せるから』

 もし、もう少し怯えているフリが出来れば……
 そうすれば悪魔召喚の儀を執り行える……

『私待ってるから、いつでも遊びに来てね』

 私のメッセージに、既読は今も付かない

9/2/2024, 1:34:49 PM