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4 もしも未来を見れるなら

 もしも未来を見れるなら
 美術の時間に、そういうテーマで絵を描くことになった。
 みんなワイワイと好き勝手におしゃべりしながら、それぞれの未来を描いていく。
 将来の夢は看護師だから白衣の自分を書く子もいれば、未来の街っぽくリニアカーを書く子もいる。
中には、未来なんてありっこないとばかり真っ暗に画用紙を塗りつぶす子もいた。おいおい私らまだ小6だよ、何があったの。
「レミちゃんは何書くの?」
「ドームツアー」
 隣の席からそう聞かれて、私は即答した。
 そう。私は、自分の夢を描いた。
 そこはアイドルのステージだ。いろとりどりのライト、推しをあがめる観衆。
 清楚であると同時に躍動感も演出してくれる、くるくる広がるひざ丈のスタート。
 そして世界のすべてに愛された、だけど世界のすべてから隠されたと言わんばかりの、かわいいけどちよっと憂いを帯びた笑顔。
 私が憧れる世界、そのままだ。
 ああ本当にすてき。はやく駆け上がらなくちゃ。この世界に。
「これがあなたの思う未来なの? アイドル志望なのかな。レミさんはかわいらしいものね。きっとなれるわ」
 書きかけの絵を見せると、先生は笑顔でそう言った。
「はい。これが私の未来、私の将来の夢です」
 私は胸を張って答える。
 ……だけどね、ちがうんです。先生。
「先生、ひとつ勘違いをしていますね」
「え?」
 まったくもって先入観とは恐ろしい。
 私がなりたいのはアイドルではない。
 ファンの中でも最も熱い崇拝をささげる特別な存在。昔で言うトップオタだ。
「私の夢は、推しのドームツアーを最前列で見守ることです。ステージにいるのは推しのリサナで、私はこれです。これが私の理想の未来です」
 指さす先には、私の姿がある。両手を合わせてリサナの歌に聞き入っている。
 優しく悲しく世界を震わせる、あの子の歌声は最高なのだ。
 私は推しをもっとも近くで見て、もっとも理解できる存在でありたい。
 かけあがりたいのだ。あの子のトップオタに。
「そ、そうなの。ごめんね。早とちりしちゃった」
 先生はそう謝ってくれた。作業の時間はまだ残っている。私は自分の席に戻って、絵をもう少し書き込んでいくことにした。
 そう遠くない将来、絶対やってくれると信じてるドームツアー。夢想するだけでも幸せになれる。未来っていいものだ。私は私の思う未来を、画用紙の上で完璧にしていく。光の粒子をどれだけ書いても足りないくらい、そこはきらきらしていた。

4/19/2023, 12:01:47 PM