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『まだ見ぬ景色』

彼に会った夜のことを時々考える。
もしもあのとき彼と目が合わなかったら、私の人生は変わっていただろうか。
それとも、やはり同じような結末を迎えたのだろうか、と。

彼は何人かと挨拶を交わしながら、チラリとこちらへ視線を走らせていた。やがて人を捌き終え、私のいるテーブルへとやってきた彼は、給仕の青年に「こちらに水を」と声をかけた。
まるで、私がそれまでに何杯ワインを煽っていたのか把握しているとでも言うように。

「この集まりは気に入った?」
水を受け取りながら、なんと返事をしたものか考える。まだメインディッシュを口にしていないから。
そんな私の気持ちを承知しているのか、彼は耳元に唇を寄せてこう言った。

「血が飲みたいなら、別室へ行こう」

直截な物言いに驚くと、彼は微笑みながら「君は同類だからね」と囁いた。
その後、別室で起こったことは詳細を省く。ただ、あの日会場にいたのは、彼と私を除くとすべて贄だった。

彼との付き合いは長きに渡った。
そんな彼がなにかを思いついたのか、楽しそうに誘いをかけてくる。

「ねえ君、まだ見ぬ景色を見てみないかい?」と。

私たちの存在が多くの人々に知られ、まさに今、排除されようとしているこの瞬間に。

何をする気か知らないが、もちろん私に否やはなかった。

1/14/2025, 9:50:42 AM