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新進気鋭の天才アーティスト

かつてそう呼ばれていた青年は、薄暗い部屋で蹲っている。
彼の手に握られているのは1枚の写真だ。青年が撮ったそれに写っている人物は柔らかく笑っている。

青年にとって、写真の人物が全ての原動力であった。
創作活動も、メディアへの出演も、食事や睡眠に至るまで、全ての活動の中心にはその写真の人物がいた。

しかしもう、その人はいない。
青年の世界は急速に色を失くした。
嘗て筆を握っていた右手は、自らを傷つけるようになり、
パレットを握っていた左手は愛する人との思い出に縋るようになった。

向日葵のように笑う天才アーティストはもういない。
そこいるのは、翼の折れた1人の青年だった。


(9 飛べない翼)

11/12/2023, 12:03:12 AM