名勿し

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遠い日の記憶

"ショウくん"の事を思い出してから、2日が経った。
暇だったし、私は地元へ帰って、あの神社に向かった。

河原の砂利を新しく買ったサンダルで弾いて歩く。
この時期とは思えない冷たい風が、ふんわりと
私の髪と首筋を撫でた。
中を軽くしたセミロングの髪は軽々とはねていき、
毛先が踊っていた。

空気を吸うと、水と雑草と少し木の匂い。
木漏れ日が眩しくって目が歪んだけれど、
雰囲気はとても優しくて、故郷に帰ってきた。
と言う感じがして、少し涙が出た。

十数年前までは綺麗にされていた神社は、
雑草が生い茂って、とても綺麗とは言えない状態だった。
話に聞けば、数年前からこの神社周辺は地元の不良達の
溜まり場になっており、色々と好き放題荒らされていた
らしい。

そう言えば昔、近所の中学生にいじめられていたっけ。

私は昔から"変な子"だった。
今は自覚済みだけど、昔は特に。
虚空に話しかけるなんてしょっちゅうで、
支離滅裂な話を突然し始めたり、
何も無い所で立ち止まっては逃げる様に走り出したり。
祖母や母から聞くこの手の話には飽きるほどあった。

それ故か、友達が少なかった。

それのせいかは知らないが、私はよく絡まれた。
あの人生しょーもなそうな奴らに。

当時の私は純真無垢で可憐な少女だったので、
普通に傷ついた。普通に泣いた。
確かそう。そんな時いつも助けてくれたのは

ショウくんだった。

ショウくんはその度私の手を引いて神社の前まで連れて来て
「もう大丈夫だよ。」
って、言ってくれてたっけ。

そんな事考えながら空き缶や吸い殻が散乱した境内付近を
見て、どうにも釈然としない気持ちが湧き上がった。

私の大切な場所を穢された。
私の大好きな場所を、勝手に。

所有者は私じゃ無いけれど、
村を出てしまった私が言える事じゃ無いけれど、
悲しくて悲しくて。むかついて。

私は近所のおばさん家からデカいゴミ袋を貰って、
片っ端から神社の掃除をした。
確かに誰も使ってない神社だったとしても、
私にとってこの神社は大切な場所だったから。

掃除が終わったのは夜の7時半くらい。
ゴム手袋は5回はち切れて、途中で軍手に変えた。
団子にまとめていた髪を下ろして、
タンクトップの上から上着を着た。

風がとても涼しかった。
陽が傾いていて、ゆっくりと夜が林を飲み込んでいった。
夜になると真っ暗になる神社は、月明かりと星だけの世界

懐かしい。

この景色を見るのは何年振りだろう。
私の記憶の中で飽和される前に、
此処に来れて良かった。

ショウくん。
私を呼んでくれてありがとう。

7/17/2023, 1:31:48 PM