ある、夜のこと
電車から降り、駅員に切符を回収してもらい、駅の外へ出た。年が明けて1月の中頃、雪が降っていた。しかしながら見慣れた景色に違いはない。家まであと2km程、こんな田舎に夜走るバスなんてある訳もなく、今年の役目を終え、ゆっくりと休んでいる田畑を横目に帰路に就いた。暖かな光を帯びた街路灯、誰かが歩いたのだろう、降り積もっても薄らと見える足跡、遠目に点々と見える民家、何度も見てきた景色である。
基本的には平坦な道であるため、30分弱で家に着く。家に帰って、直ぐに荷物を自室に置いてからリビングへ向かった。そこで親と少しばかり話をしながら夜ご飯を食べた。食後には、自分で紅茶を入れてゆっくりと自室で休むのが日課である。例に洩れず、この日も紅茶を入れた。私が愛飲しているのはフォートナム&メイソンのアールグレイクラシックで、入れ方についてはジョージ・オーウェルと気が合った。
机に座って息をつく。雪は弱まり、少しばかり夜空がこちらを覗いていた。その時、ふと子供の頃を思い出した。「流れ星に願い事を唱えると、その願いが叶う」という、在り来りなものだった。それでも当時は信じて、流れ星をずっと待っていた。そんな事を考えながら時間が過ぎ、紅茶も飲み切った。
その頃には雪は降り止み、満天の星が見える程に天気は良くなった。そして風呂も済ませて眠りにつこうとした時、また流れ星のことを思い出した。成長した今、童心を忘れ、悩む事か多くなった。ならば、再度童心を取り戻すのも悪くない。そう思った私は、夜空に広がる数多の星に願いを込めた。なんの変哲も無い、綺麗な夜空だった。何も変わらないだろうと思ったが、それと同時に満足感も感じていた。そして、段々と瞼が重くなっていく。
また、一日が終わる。明日はどんな日になるだろう。
そんな期待と不安を胸に、自分は眠りについた。
了
2/10/2025, 1:53:10 PM