悪役令嬢

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『すれ違い』

「ふっふーん♪」

秋の穏やかな午後、柔らかな光が降り注ぐ中、
女優帽を被った美しい娘が鼻歌を口ずさみ
ながら優雅に箱馬車から降り立った。

両手には、シルクのリボンで飾られた紙袋が
幾つもぶら下がっている。

「お帰りなさいませ、主」

屋敷の扉が開かれ、彼女の忠実なる執事
セバスチャンが恭しく頭を下げた。

「ただいま戻りましたわ。セバスチャン、この
荷物を私の部屋まで運んでくれるかしら?」

「かしこまりました」

悪役令嬢はお気に入りのブティックで
おにゅーの洋服を買い求めていたのである。

ソファに身を沈め、セバスチャンが淹れた
紅茶の香りに包まれながら、戦利品の整理に
没頭する悪役令嬢。

「こちらはベッキーへのカシミアコート。
そして、これはあなたへ」

小さな紙袋を差し出されたセバスチャンの瞳
に一瞬、驚きが浮かぶ。

「俺にですか?ご厚意、痛み入ります」

「ふふん。私の執事たる者、身なりには
気を遣っていただかねばなりませんもの。
さあさあ、開けてみてくださいまし」

セバスチャンが礼を言いながら袋を開けると、
中にはレースの縁取りが施された女性用の
下着が入っていた。

「え……」

思わず二度見するセバスチャン。

「あなたに似合うと思って選びましたの」

「……」

「セバスチャン?気に入りませんでしたか?」

「いえ、決してそのようなことでは……」

悪役令嬢は気づいてなかった。
自分用に買った下着と、セバスチャン用に
買ったネクタイの紙袋を取り違えていたことに。

彼女から期待に満ちた眼差しを向けられ、
セバスチャンは何とか動揺を隠そうと
必死だった。

「お父様とお兄様も愛用している
ブランドですのよ」

「左様でございますか……」

(貴族の世界では男性も女物の下着を
身に付ける慣わしがあるのか?)

青ざめるセバスチャンをよそに、
悪役令嬢は無邪気に続ける。

「では早速、ここでつけてみてくださいまし」

「は?」

「あなたが身に着けた姿が見たいのですわ。
ね、いいでしょう?」

「…………」

(ここで?今すぐに?)

セバスチャンは険しい表情でしばし硬直して
いたが、やがて意を決したように顔を上げた。

「ご命令とあらば──」

自らの衣服に手をかけ始めたセバスチャンに
悪役令嬢は驚いて顔を真っ赤に染める。

「セバスチャン!?
なぜ服を脱ごうとしているのですか!」

「主のためならば、この身の恥じらいなど
捨て去ります」

「どういうことですの!?」

その後、二人の誤解は無事解けたのであった。

10/19/2024, 5:00:14 PM