SAKURA・Lemon

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        __降り止まない雨__


 昇降口の前で、夕焼けの茜色の空とともに、土砂降りな雨、ジトジトとした湿った空気が嫌ったらしい、けどなんだか落ち着く、不思議な気持ち。私は、決心して彼の名前を呼んだ。
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 私、「望月 奏」は図書委員会だ。しかも、委員会では委員長をやっていた。いつものように委員会の仕事で図書室に向かう。午後4時の図書室に。

ーガラガラー

 図書室に入ると、とある光景が、目に入る。いつもの時間に、いつもの場所で、ただ静かに本を読んでいる、同じクラスの秋山くん。ー秋山 智也ーが、一番奥の椅子に座っていた。ちょうどこの時間帯になると、そこにはまるで、秋山くんにスポットライトが当たっているかのように、夕焼け空から、茜色の太陽の光が当たっていた。でも今日はいつもとは違く、綺麗な空の光がさしているのに、雨がザーザーと降っていた。
私はその光景に思わず目が離せなくなっていた。そう私は秋山くんに片想いをしている。きっかけは…。正解。この図書室だよ。


 私が図書委員会になってすぐのことだった。いつからだろう、私の図書室の当番の時間帯に、必ず例の椅子に座って、たんたんと本を読んでいる秋山くんの姿があった。
それからということ、毎度この時間に図書室を利用していることに気がついた。
当番だった私に、よく秋山くんが本の場所を教えてほしいと聞いてくるようになった。いつからか、本の場所を教えるだけでなくて、普通の会話をしていくようになった。
 そうやってごく普通の他愛のないやり取りをしていくにつれ、私は秋山くんがどんな人なのか知りたくてたまらなくなっていた。


 そしてまた、今日も秋山くんが私に、本を探して欲しいと聞いてきた。まるでそれは、わざと私に聞いてきているんじゃないかって、勝手に思ってしまったり。なんてね。
でも、秋山くんからこうやって場所を聞きにきてくれるのはもの凄く嬉しかった。なにせ好きな人から頼られてるんだし。今日も頼れる図書委員長として頑張らなきゃ。
確か、"降り止まない雨"だよね。
だけど、ちょっと困ったな、私もその本が分からないのだ。
普通は索引で調べれば分かるんだけど、どうやらここにはないらしい。

「あれ。前はあったと思ったんだけどな。」

 秋山くん情報からは、つい最近、ここの図書室でその本を見つけたらしい。どうしてその本を覚えているのか聞いてみたところ、題名だけで心が惹かれて、妙に不思議な気持ちになったという。
だけど図書室の時間が時間で、読むタイミングがなかったため、後々読もうとしていたらしい。
 もしかしたら、他の人が借りていっちゃったのかもしれない。今回は諦めてもらわないとな…
 そう告げると、秋山くんはどこか悲しげな表情で、

「そっか…。わかった。ありがとう。」

 と、言ってくれた。
うん。やっぱり秋山くんの声は優しいなぁ。そう呑気な事を考えていると、突然秋山くんが、

「…俺さ、この時間帯の図書室が好きなんだ。」

「…えっ、あ、そうなんだ」

突然だったからと気を抜いていたから少し、戸惑ったようなぎこちない返事になってしまった。

「ほら。俺がよく座ってる椅子。太陽の光がさしてるでしょ。そこから見る窓の景色、本を読んでる時よく見るんだけど、凄く綺麗なんだ。」

しってるよ。いつもいるもんね。きっとあの場所が好きなんだろうな…。と何回思ったことか。

(本を読んでる秋山くんも素敵だよ。)
私は心の中でそう伝えた。そして、その気持ちは飲み込んだ。でも、いつかこの気持ちも秋山くん本人に届いて欲しい。伝えたかった。

「それと、今日の雨凄いよな。空が光ってるのに、結構な大雨だよ。」

「ね。私もちょっと不思議だなって思ってたんだ。」

「あ、そういえば、その"降り止まない雨"?ってどういう本なの?」

「俺も、まだ詳しくは読んでないから分からないけど、雨の時の詩が書いてあったり、1分で読める結末があったり、雨をテーマにしてるんだ。」

「一つだけ、主人公が恋をして、恋の相手と少しずつ、想いを寄せ合い、そして、雨の中遂に互いに想いを…。っていう話しがあった気がするよ。」

「恋愛小説みたいだね。」
「多分、そうだね。」
 
 本の内容を聞いて、少し不安な気持ちになった。私の恋は、果たして叶うのだろうか。ただの勘違いだったら?
大雨の音が私の心にささっているように感じて、そう思うと、だんだん胸が苦しくなってきた。


ーキーンコーンカーンコーン…ー

チャイムだ…。そろそろ帰らなきゃな。
「私、そろそろ帰るね。同時に図書室も閉めるから。」
「わかった。俺も準備する。」

そういって、2人同時に帰る支度をする。


 階段を降りて玄関に向かう。外からザーザーとうるさい音がなっている。梅雨が近いだからだろう。
 ここ一週間ずっと雨が降っている。

2人同時に傘をさす。秋山くんの傘は私の傘より少し大きめの黒色の傘だった。

大雨のせいで前が見ずらかった。なのに、茜色の空だけクッキリと光が差していた。変な天気だなぁ。
でも、この景色、なんだか見覚えがある感覚になった。
 オレンジ色に照らされる大粒の雨の中。私は決意を決め、秋山くんの名前を呼ぶ。伝えるなら今だ。そう感じた。


私は、雨に負けないぐらい、少し大きめの声で彼の名前を呼ぶ。大雨のせいで声があまり届かない。

だけど、微かに聞こえた、優しい声色。彼が私の名前を呼んだ。

そして、2人同時に口を開いた。











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"降り止まない雨の中"

5/25/2024, 2:12:09 PM