わをん

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『蝶よ花よ』

私の大叔母は身の回りのことを自分で何ひとつできないひとだ。それなのに人の好き嫌いが激しいためにお手伝いさんを雇ってもすぐに追い出してしまう。そのために私は祖母から頼み込まれ、少ないながらも給金をもらって身の回りの世話をしていた。
大叔母の若かりし頃はとびきりの美人だったらしい。昔の写真と今を見比べても美貌は変わらず。しかしそれはとるべき齢を重ねないまま老いてしまったとも言える。
「私の若い頃は殿方からひっきりなしに声をかけられていたのよ」
社交界の華と呼ばれ蝶よ花よと持て囃された栄華も今は昔。今日も耳にたこができるほどには聞かされてきた自慢話を聞き流しながら一日の家事をなんとか終える。一人には身に余るぐらいに重い仕事ではあるけれど、辞めようとは一度も思わなかった。大叔母の少女のような可愛らしさは時折うざったく、しかし庇護欲を掻き立てられる。大叔母に恋をしてきた殿方の気持ちがわかると同時に、生涯を共にしたいとは思われなかったのだろうかと余計なことを思ってしまった。

8/9/2024, 3:11:16 AM