小絲さなこ

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「初恋リベンジドライブ」


ローカル線が廃線になりバスが運行されていたが、あと半年でそのバス路線も廃止になる。

それを知ったのは、有名な配信者の動画。

高校卒業まで過ごした集落の風景を見ていたら、居ても立っても居られなかった。


あれだけ出て行きたくて仕方がなかったのに。
もう戻らないつもりで出てきたのに。


突発的にもぎ取った有給は三日。
都心から故郷まで、公共の交通機関を使うと移動に一日かかる。しかも時間的に帰りのバスはない。
すでに実家は無いので、今もまだ集落に住んでいる幼馴染に連絡を取ると、車で駅まで迎えにきてくれるという。有難い。


数年ぶりに会った幼馴染とふたりきりの車内で、思い出話に花を咲かせる。
すれ違う車もない細い道をスムーズに運転する彼。こっそりと盗み見る私。

まさかこんな日が来るなんて。子供の頃の私からは想像もつかなかったことだ。
あの頃、顔を合わせれば喧嘩ばかりしていたから。

それが実は初恋だったことは、ここを離れてから気付いたことだった。


「そういや、どこに泊まるんだ?」

集落の入り口の分かれ道で一時停止した彼は、そう言って私を見つめた。

「あー、実はまだ……急だったし……」
「予約してないのか。うちに泊まればいいよ」
「いやいやいや、そういうわけにも」

彼の提案に慌てて両手を振る。
だって、奥さんとか子供とかいるでしょ。

「いや、俺まだ独身だし。母ちゃんも喜ぶしさ」

そう言って彼は私をじっと見つめてくる。
なんだか居心地が悪い。
私は彼から目を逸らした。


────懐かしく思うこと

10/31/2024, 3:29:54 AM