幻覚

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「天国と地獄」

父が死ぬまで、自分は幸福だった。父が死んだのは自分が高校に上がった頃か、或いはまだ中学の頃で、そんなガキの言う幸福なんて大袈裟な話ではあるが。
父は人望に溢れ、常に人の中心に居た。家には毎日のように父を慕う人間が訪れ、自分にもよく話しかけて来た。彼等がそう言うように、自分もいつか父のようになるのだと信じていた。
父が死ぬまでは。
父が死んで、父を慕っていた筈の人々は揃って掌を返した。気付いた時には家から金も金目の物も消え去っていた。母は現状を受け入れられずに過去に閉じこもってしまった。その後しばらくの事は、自分の記憶にも無い。
ひとつ確かなのは、人間なんてどいつもこいつも信じられないと言う事だ。

5/27/2024, 1:06:38 PM