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“形の無いもの"



 懐かしい匂いがした気がした。書類に目を通すのをやめ、顔をあげると湯気のたつコーヒカップを手にした後輩と目が合った。

 「紅茶、飲みます?」

 そっとカップを持ち上げて尋ねる後輩に軽く首をふると、ですよねえと間髪いれずに気の抜けた返事がかえってきた。

 「でも、この紅茶すっごい高級ブランドのやつみたいですよ?入れ物からもう違いましたもん」
 「知ってるよ、黒くて丸い缶のだろ?」
 「……先輩って紅茶詳しいんです?」

 高級な紅茶へのうっとりとした表情をがらりとかえ、胡乱げな目でこちらをみる後輩に、その紅茶だけだよと答えて席をたつ。俺もコーヒー淹れてこようかな、と空のカップを手にした俺の背に今、給湯器混んでるかもですよぉと後輩の声がした。

 フルーティで少しだけ甘い匂いがするあの紅茶の香りはアイツの好きな紅茶の香りだった。コーヒーの強い匂いが嫌いだと俺がコーヒーを飲むのを見ては眉を潜めていたアイツの顔を思い出す。アイツが嫌いなのは、コーヒーの匂いじゃなくてコーヒーをブラックで飲めないことが俺にバレることだと気づいたのはいつだったっけ。
 あまりにくだらなくてすっかり本人に言及するのを忘れていたけれど、次に会った時にはちゃんといってやろう。きっと俺にバレていた恥ずかしさとわざわざ言われたことへの怒りで頭から湯気を噴き出して喚き散らすのだろう。
 後輩の言った通り、高級紅茶のせいか時間帯のせいか混み合う給湯器からポコポコと湯気が上がる様にアイツの姿が重なって思わず笑いがこぼれる。今日くらいはアイツの好きな紅茶にしてみようかな、と紅茶の入ったティーポットに手を伸ばしてみた。



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タイトルに沿えてるか微妙ですが、、、

9/24/2024, 1:52:06 PM