【私の日記帳】
ベッドの上に身体を起こし、日記帳にシャーペンを走らせる。今日はいつもより調子が良い。いつもよりも長く思いを記すことができそうだ。
「それ、いつも書いてるよね」
軽いノックと共に病室へと入ってきた君は、私の手元に目をやって柔らかく微笑んだ。その片手には向日葵の花。手ぶらで来て良いよといつも言っているのに、訪れるたびに季節の花を持ってくる。それが窓の外に広がる外の世界に憧れることしかできない私を少しでも楽しませようという気遣いなのだとはとっくの昔に知っていた。
「うん、私の宝物だから」
いつか、私の命がこの世界から失われても。この日記帳は残り続ける。そうしてきっと、これを世界で一番に読むのは君だから。
たくさんの幸せをありがとう。私のそばにいてくれてありがとう。私がいなくなっても胸に溢れるこの感謝を君へと届けることができるように、ありったけの思いをここに綴っていくのだ。声に出して伝えるのは恥ずかしいことまで、全部。
――愛してる。日記の最後はいつだって、そう締め括って。翌日も日記を書くことができたなら、前日の愛してるは消しゴムで消すのだ。突然この心臓が鼓動を止めてしまっても、君に必ず私の愛を伝えるために。
「私が死んだら、これは君にあげるね」
「……やめてよ。死ぬとかそういうこと、言わないで」
泣きそうに眉を下げた君のことを、そっと手で招く。重たい腕を持ち上げて、君の頭を優しく撫でた。
8/26/2023, 11:35:11 PM