好きになれない、嫌いになれない
落花流水の情、と言う。花が落ち水は流れるように、一方に思う気持ちがあれば、相手もその思いに絆され、きっと流されるだろうと。しかし、落花情あれども流水意なし、が往々にして現実というもので。
「好きだよ」
もう何度口にしたか分からぬ言葉は、再びするりと軽く舌を滑って出ていった。彼女は悲しそうに笑っている。
「ごめんなさい。貴方のことは、好きになれないの」
このやり取りを何度繰り返しただろう。そして、何度これで最後にしようと思っただろう。諦めきれない己の事を、いつも彼女は優しい笑みで受け止め、そして拒んだ。
「僕だって、」
落ちる花は際限なく、水面へと舞い落ちていく。でも水は流れては行かなくて、ただその凪いだ水面に花が重なっていくだけだ。そしてその花もいつか水底に沈み、泥に溶けていくのだろう。
「君のことを、嫌いになれない」
また彼女は笑った。花はまだ落ちきらない。
4/30/2025, 6:42:03 AM