不整脈

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ただいま。
風鈴の音がして、誰かが返事をした気がした。
この家にはもう、私しかいないはずなのに。
玄関を開けると、焼けた畳の匂いが
昨日の記憶みたいに漂っていた。
庭の草はのび放題。
でも向日葵だけは、律儀に空を見ている。

廊下を裸足で歩いたら、
床の熱で夏を思い出した。
虫取り網も、麦茶も、
ごっこ遊びの嘘とほんとの間で
私たちはちゃんと、息をしていた。

でも今は、
押入れの奥にしまった声も、
軒下で泣いてた理由も、
あの夜の花火と一緒に消えた。

私は畳に座って声を出す。
この空気、この匂い、この眩しさ。
全部が、私の記憶の中から滲み出ていた。

ほんのすこし、
泣きたくなるくらいの温度で。

8/4/2025, 1:03:58 PM