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『風に乗って』

長い草が風になびいて波のように揺れている草原。かき分けて進むと灯台があった。近寄って見ると張り紙があり、
〖この先、ご自身の分身が数人、共同で暮らしている島がありますので、そこでご自身達と生活できます〗と、書いてあった。

灯台の扉が開いて、中から私に似た人物が一人出て来て、「迎えにに来たよ。一緒に島に行こう」と、言った。「ここは死後の世界なの?」と聞くと、そうだと言った。

ここまでの道のり、誰も迎えに来ないし、道案内もないから分からなかったが、私が死んでも迎えに来る人なんかいるまい、と思っていた。

でも、来てくれた。けど、それも私なのなら、結局誰もいないのと同じことなのだし、相変わらず、一人なのだが、それでいいと思った。

死んだからには、自分と向き合うことになるということか。生きてきた人生も逐一おさらいして、生きる意味を探るのか。

「その必要はない」と、分身は言った。「木や草や花も虫も、小鳥も猫も、蛸や提灯アンコウなんて不思議な生き物だって、ただ生きてそこにいるだけで、意味なんてない。だから、そこにいればよかったんだよ」

4/29/2023, 11:40:23 AM