→短文・寂寥
目深に被った帽子の下、陰気な影を顔に貼り付けた男の、落ち窪んだ瞳の、いや増しに光る鋭い眼光が、駅を出てゆく蒸気機関車を追う。
いつまでも執拗に、遠く遠く……。
低く垂れ込める灰色の雲とヒースの草原が重なり、地平の彼方で溶け合う。
もうもうと尾を引く機関車の蒸気が、ぼやけた曇天の一部となる。
何もない荒涼とした風景が、のんべんだらりと広がっている。遠く遠く遠く……。
駅員の姿すらない、賑わいの消えた駅に、無人の沈黙がベールを落とす。
陰気な男は去ってゆく。
誰とも挨拶もせず、誰からも顧みられず、男は来た道を戻ってゆく。
遠く遠く遠く遠く……。
テーマ; 遠く……
2/9/2025, 12:03:29 AM