せつか

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手に持っていたものがいつの間にか無くなっている。
そんな感じなのだろうか。
ランタンを持って歩いていたら、知らないうちに火が消えて、いずれ持っていた事すら忘れてしまうほど長い時間を取り落としたまま手ぶらで歩いている。
そんな感じなのかもしれない。

持っているという感覚すら無くなってしまうほどそのランタンは長い時間寄り添っていたのに、消えないと思っていた火が消えて、いつかランタンそのものが無くなってしまった。
どこに落としたのかすらもう思い出せない。

もっと写真を撮れば良かった。
もっと録音すれば良かった。
いや、それよりも何よりも、もっと直接話をすれば良かった。
ランタンの火が消えないように、燃料を添えてあげれば良かった。

実の妹の顔も分からなくなった兄は、今日もぼんやり何も無い天井を見上げている。


END


「記憶のランタン」

11/18/2025, 10:38:11 PM