『花畑』2023.09.17
「今からコスモスでも見に行かない?」
唐突にそんな事を言われて、唐突に連れ出された。
汐留駅の近くにある公園が今は見頃なのだと、彼は得意げに言った。
これが可愛い女の子に言われたのならばやぶさかではないのだが、残念ながら誘ってきたのは百八十五センチのいい歳をした男である。
素直に思ったことを言っても、彼は笑うだけだ。子どもの戯れだと思っているのだろう。三十代も四十代も変わらないが、彼からすれば、オレは子どもなのだ。
そんな気持ちのままに公園に着くと、果たして満開のキバナコスモスが咲き乱れていた。
オレンジ色の花が一面に咲き誇っており、青空とマッチしていてまるで絵画のようである。
「気に入った?」
彼はそう問う。
「ここの写真を見た時、お前を思い出してさ。一緒に来たかったんだよ」
ニコニコと目尻のシワを深くして、彼は嬉しそうに笑う。
なるほど確かに、オレンジ色も空色もオレが持っているものだ。
彼はこのコスモス畑からオレを連想し、今日ここに連れてきたのだという。
「自然な美しさ。お前にピッタリだな」
恥ずかしげもなくそんなことを言って、彼はうんうんと頷く。
そして、おもむろにスマートフォンを取り出し、こちらに向けた。
「ほら、笑って」
――パシャリ。
オレはどんな顔をしていただろう。満足げに笑う彼を見るに、きっと自然な顔をしていたのだろう。
9/17/2023, 11:44:33 AM