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「誰かいるのか?」

返事は_ない。
がちゃり、と扉を開ける。
冷房もついていないのに、やけに冷えた密室。
数年前に旅立った、あの時の妻の体温を思い起こさせるこの部屋の景色とその冷たさに。勿論のこと、いい印象など抱くはずもなく心の奥底に深い傷をまた一つ、増やすだけだった。

妻を無くしてから、何度冬を越したことか。
今年もまた、孤独な冬を越すことになるだろう。

そういえば、俺の息子は元気にしているのだろうか。
聞きたくても、もう聞けるはずもない。

俺は既にこんな体になってしまったから。
囚われてしまったのだから。

嗚呼、孤独は辛いな。
悪夢の中に1人きり。

年老いても行かないこの身体は、きっと呪われているのだろう。
開けても開けても前に進めぬ扉の向こうに、外はあるのだろうか。

こんこんこん。
3度のノックが鳴り響く。

無限に続く、妻が最期を迎えた部屋から出るために。

お願いだから、"誰か"いてくれ。

そして俺は息を吸う。

それは絶望と少しの期待をかき混ぜた___

⦅2025/10/03 誰か⦆

10/3/2025, 11:02:12 AM