シシー

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「あんたなんかッ」

 何かを言いかけて苦しげに顔を歪めた。声を殺して泣く姿が頭から離れない。やっぱり私のせいなのだろうか。

 ズルッズルッと重たい椅子を引きずって窓際まで持ってきた。椅子の上に立って少し錆びついた鍵を力を込めて外す。思っていたより大きな音を立てて外れたから、びっくりして椅子から落ちてしまった。おしりは痛かったけど1つ目の計画は成功したからよし。
 もう一度椅子の上に立って窓を開ける。生ぬるい風が頬を撫で、部屋の中を荒らしていく。積み重なった紙の束やホコリが宙を舞っているのを横目にみながら、窓の外へ頭を出した。誰もいないパーキングに数台駐車されているのを確認する。車は高級品らしいからぶつからないようにどこに落ちるかを見定める。
 ウンウンと唸っていると玄関の方から足音がした。

「はやくしなくちゃ」

 落ちる場所は決めた。ここは9階だから生き残ることはまずないだろう。いかに迷惑をかけず消えることができるかを優先するんだ。よし。

 去年の誕生日にもらったお手製の人形を抱いて窓から飛び出した。私だけのもの、世界に一つだけの私の宝物。
 ずっとずっと大切にするから、一緒にいてね。

             【題:世界に一つだけ】

9/10/2023, 1:39:27 AM