お題『あいまいな空』
天気予報が嘘をついた。
夕方から降り出す予報だった雨が、午後からぽつりぽつりと。
梅雨に入ってからというもの、毎日毎日曖昧な空模様。
今日の主様のお召し物は、衣装担当のフルーレが仕立てたアジサイモチーフのワンピース。主様はカラフルなそれを着て、庭に出たいとおっしゃられたので俺がエスコートさせていただいた。しかしその途端に雨が降り出してしまったのだ。
それでも楽しそうにはしゃいでいた主様だったけれど、風邪をひいてしまっては大変なので、すぐさま引き返してお風呂のご用意をする。
オレンジスイートのアロマバスにした。湯加減も大丈夫。
「主様、お風呂のご支度ができました。ゆっくり浸かって温まってくださいませ」
バスタオルを頭からすっぽり被って居室のソファで足をぶらぶらさせていた主様は、パッと顔を明るくさせると、俺にとんでもないことを言い出した。
「久しぶりにフェネスもいっしょに入ろう!」
もうすぐ十歳になろうとしている女性と入浴するのは、俺の方が居た堪れなくなる。
「いえ……俺は外に控えていますので……」
「それじゃ他の……そうだ、ハウレ」
えっ! いや、ハウレスは。
「もっとだめです!!」
これは独占欲なんかじゃなくて、俺の父性、俺の父性……そう自分に言い聞かせながら主様を浴室に押し込んだ。
主様、お願いです。今時分の空模様のような曖昧な言動で、俺の心を試さないでください。
6/14/2023, 10:36:13 AM