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『さよならは言わないで』

 デートの時も、話を振るのは大抵僕の仕事だった。

 それほど口数の多くない君は、その割によく笑った。僕のくだらない話にころころ笑う君がかわいくて、どんな話が好きなのかなとか、これは面白いと思ってくれるかなとか、そんなことばかりを考えていた。楽しい時は繋いだ手をいつもより大きく振ることも、話の続きが気になる時はやたらと僕を見つめてくることも、あんまり興味のない時は口先が少しとんがることも。ぜんぶ僕の好きな君のかわいいところだ。

 そうやって君のことばかり見ていたものだから、その日の君がいつもと違うことはすぐにわかった。
 だから、僕はいつもよりずっとよく話した。話題を切らさないように、間を作らないように、話の主導権を手放さないように。少しでも話が途切れてしまえば、きっと君が話し出してしまうから。
 いつもはうれしい君からの話題提供を、こんなに恐れたことはなかった。

 必死に話題を探して、喋り倒して、それでもやっぱりその時は訪れてしまった。
 君の唇から紡がれる音に、耳を塞ぎたくなったのは初めてだ。

 ねえ、____しよっか。

12/3/2023, 10:32:51 PM