300字小説
師走の礼
夜、目が覚めると部屋が逆さまになっていた。
いや、違う。俺が逆さまになっているのだ。目の前に眠っている俺の顔がある。その上に俺が逆立ちするように浮いているのだ。
『幽体離脱!?』
まさかお笑い芸人じゃあるまいし。身体に戻ろうともがくが、手足は空を掻くばかり。どんどん上に上がっていき、背中が天井に着いたとき
『しょうがねぇなぁ』
呆れた男の声がして、グイッと肩を押される。俺はそのまま落ちて身体にぶつかり、目覚めると普通にベッドで眠っていた。
大掃除。念を入れてタンスの天板を掃除する。その後
「誰か知らんがありがとう」
盆に礼の餅とみかんを乗せて置いた。
『こいつは良い』
あの声がする。見上げると盆は空になっていた。
お題「逆さま」
12/6/2023, 12:16:30 PM