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 私には卓也という恋人がいる。
 初めて出逢った時に運命を感じ、私から告白して、それ以来ずっと一緒にいる。
 拓哉と一緒にいるのは、私にとってもはや日常の一部。
 拓哉がいないなんて考えられない。

 でも私たちはまだ学生だから、別々の家に住んでいる…… 
 だから高校を卒業したら卒業したら、同じ大学に通って、大学近くのアパートに一緒に住むんだ……
 そして大学卒業後は結婚……
 なんて幸せな未来予想図。

 けれど私には最近悩みがある。
 もしかしたら、一緒にいれなくなるような、重大な悩みだ。
 それは『拓哉が最近冷たい』という事。

 最初は気のせいだと思ったが、何度デートに誘っても煮え切らないのだ。
 もしやと思い友人に聞いてみたけど、拓哉には他の女がいるような気配はない。
 そうなると認めたくはないけど、一つだけ可能性がある。
 ……倦怠期だ。
 私と拓哉に限ってそんな事は無いと思っていた……
 けれど、実際そうなったのだから由々しき事態だ。

 これを放置すれば、待つのは破局だろう。
 妄想にも関わらず、私は頭をガツンと殴られた衝撃を受ける
 拓哉がいない未来なんて想像できない
 いなくなったら生きていけない。
 最悪の未来を避けるため、私自ら動かねば

 ではどうするか?
 昔の人は言った。
 『押してダメなら引いてみよ』と。

 つまり、私が拓哉に素っ気ない態度を撮るという事……
 ――無理だな。
 一瞬で不可能と判断する。

 たとえ嘘でも、拓哉の事を嫌いになんてなれるはずがない。
 多分無理やりにでもやろうものなら、そのままストレスで倒れてしまう事だろう。

 そうなると出来ることは……
 『押してダメなら、もっと押してみよう』。
 それしかない。
 ちょうど授業終了のチャイムが鳴った。
 隣のクラスにいる拓哉の所に走り出す。
 この重大な問題は、一刻も早く解決しなければいけない。

 私は拓哉のいる教室に着くや否や、拓哉を呼ぶ。
「拓哉!!!」
 すると一斉にクラスにいた人間が、私の方を見て――嫌そうな顔をする。
 なんで嫌そうな顔をするのか、小一時間ほど問い詰めたくなる。
 しかし優先順位を間違えてはいけない。
 今大切なのは拓哉に会う事だ。

「咲夜、どうした?」
 教室の中から、私に気づいた拓哉が出てくる。
 その顔を見て、幸せな気分になり――そして首を振る。
 今日は拓哉の顔を見に来たわけではない。
 もっと重要な用事があるのだ。

「拓哉、これからデートしよう」
「今から?」
「今から!」
 これまでの熱い想いを思い出してもらうには、デートしかない。
 しかし、拓哉は嫌そうな顔をした。

 その時私は気づいた。
 もう、拓哉の心に、私はいないんだと……
 そう思った時、私の目から涙がこぼれる。

「ちょっと待て咲夜。
 なんで泣いているんだ」
「グス、だって拓哉、私の事が嫌いに――」
「ならないから、誤解だから!」
「じゃあ、なんで?」
「何でって……
 まだ授業が残ってるから……かな」
「あー」
 ああ、授業ね。
 そういえばまだ学校終わってなかった。

「じゃあ、学校終わったらデートしてくれる?」
「分かった。
 一緒に帰ろう」
「本当!?
 やった」
 私は嬉しさのあまり、拓哉に抱き着く。

「おい、咲夜。
 みんなが見てる」
「学校が終わるまで拓哉をチャージする」
「いや、それは……
 はあ、授業が始まるまでに帰れよ」
 そう言って拓哉は、大人しく抱き着かれてくれる。

 私は何を怖がっていたのだろうか?
 拓哉はこんなにも優しいのに。
 もし嫌いならこんな事をさせてくれるわけがない。
 倦怠期というのは私の気のせいみたいだ。
 これからもずっと一緒にいられることが何よりも嬉しい。

 私が安心して拓哉分を補充していると、クラスの話し声が聞こえる。
「またあの二人やってる」
「お熱い事で」
「ホント、飽きないのかね」
「俺たちは飽きたぞ」
「ここまで来ると逆に気にならないな」
「二人がイチャイチャするのは、もはやこのクラスの日常風景だな」

6/23/2024, 1:46:57 PM