NoName

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「ごめんね」
「いや、こちらこそ、困らせちゃってすみません」

好きだった年上の人に振られてしまった。
自宅近くのごはん屋さんで、たまたま隣の席になった彼とは、お店で会うと話すようになった。
8つ上の大人の男性。
大学生の私は、相手にされなかった。

「もし、私が椎名さんと同じ歳だったら、私のこと好きになってくれましたか?」
「ごめんね」

曖昧な返事をするずるい人。
そういうところも、好きだった。

「また、ご飯食べてくれますか?」
「もちろんだよ」

そう言って優しく笑う彼。
しばらく忘れられそうにないけれど、もう彼を困らせたくないから、しばらくは私1人で抱えようと思った。
もう少しだけ、好きでいさせて下さい。椎名さん。



〜 椎名side 〜

未来に希望がたくさん詰まっている彼女。
30代に差し掛かる僕には、眩しかった。

「椎名さん、おやすみなさい」

無邪気に笑うところとか、ご飯を頬張って幸せそうに食べるところとか、真っ直ぐすぎるところとか、僕の方がやられていた。
手を振って僕と反対方向に歩く彼女の背中が、小さくなっていく。

もしも、同じ歳だったなら
もしも、同じ歳に戻れたなら

「すきになってたよ、きっと」

彼女の背中が消えてから、僕は足を動かした。



《もしもタイムマシンがあったなら》

7/22/2024, 1:05:56 PM