偶奇数

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 雨がざあざあと降っている。その音がなんだか自分の心をも表しているように見えて、彼女は密かにため息を吐いた。
 バスに乗れば先は短く感じる。何かを先延ばしにしたいときにはいつもより遅く着くバスに乗ることが習慣となっていた。
「お母さん、見てみてー!」
 視線を窓の外から車内に移せばはしゃいだ少女とぼーっとしている弟とお母さんが見えた。少女が人さし指で指した先には指で描かれた猫。
 幼い頃やっていた雨が降って湿った窓に息を吐いてそれを指でなぞる遊び。今はもうやらなくなったな、と思い出す。
 そういえばあの頃の猫はどうなったんだろう。小学生の時拾った黒ぶちの猫は1週間過ごした後にそろそろ離さなくちゃね、と母親が言い始めたときにいつの間にかいなくなっていた。
 そうつれづれと考えているうちに運転手の放送が入る。
ー次は、采岡駅前ですー
 ぴ、と赤い停車ボタンを押した。


「お前はあの猫の子供?」
 なあ、と鳴く子猫の喉を撫でる。黒ぶちの子猫は雨の中気持ちよさそうに目を細める。
 バスを降りた直後、いつもの帰り道に子猫がいるのを見つけたのだ。
 試しに、と思って頭から尾へ、ぐるうり、と撫でるとどうやらお気に召さなかったらしい。猫はそっぽを向いてとっとと歩き直した。
 まあいいか。曇っていた心がちょっと晴れやかになったのを感じて、口元には知らず知らずのうちに小さな笑みが浮かんでいた。まだまだ雨は降っていて、季節は梅雨だけれど。あの子猫がかつて拾った猫に似ていて、ひょっとしたら子供だったりして。そう考えると自然と足は弾んだ。

6/1/2024, 10:18:17 AM