『もう二度と』
ここはどこ?
起き上がって辺りを見回すと、足に鎖が繋がれていた。
ジャラリと重たい音がする。
周囲は石造りの壁、今しがたまで自分が寝ていた簡素なベッド、同じく簡素な木の椅子。それだけ。
窓がないことに動揺した。
扉はある。木製で、鉄か何かの丸いドアノブがついている。
そこまで鎖が届くかどうか確かめるために立ち上がる。
ドアノブに手が届くか届かないかの絶妙な位置で、足が鎖に引っ張られた。
やっぱり、と落胆してベッドに戻ると、枕元に一輪の花が落ちているのに気がついた。
目立たない小さく可憐な青い花。
勿忘草だ。
花言葉は「真実の愛」。
そして「私を忘れないで」。
この花を取ろうとして急流に転落した騎士が、今際の際に恋人に捧げたという花。
嗚呼、初めて涙が頬を伝う。
あの人は殺されてしまった。
私の髪にこの花を挿してくれた、あの人は。
転生したという私の話を信じてくれて、運命を変えるために一緒に行動してくれた、あの人は。
もう二度と、あの微笑みを向けてくれることはないのだ。
3/25/2025, 7:01:51 AM