校舎裏のゴミ捨て場の横には、桜の木が一本ある。
四月に入って満開になったその下に、金髪ピアスの用務員さんが立っていた。
「久しぶりに会えたね」
「……新学期だってのに、なんで一人で来るんだよ」
「友達いないって知ってるでしょ」
最近、週一のシフトに変更になったらしい用務員さんは、前より一段と目付きが悪くなった。気がする。
頭に桜の花びらを乗せて、あくびを一つ。もう一つ別な仕事を始めると言っていたから、睡眠時間が少ないんだろうな。
「ねえ、用務員さん」
隣に並ぶと、用務員さんは半歩横にズレた。
「何」
「最近ね、話したいことが溜まりに溜まってるんだけど」
わたしは半歩詰める。でも、用務員さんはまた半歩離れていく。
「そういうのは俺じゃなくて同級生とかに言えよ」
「やだ」
「……お前なぁ……」
用務員さんの呆れた顔。溜め息。頭の桜の花びら。
すべてが愛おしく思えて、誰よりもずっと、ずっと好き。それなのに。
「用務員さんじゃなきゃやだ」
「……諦めろ」
今度は二歩、三歩と離れていく。
太陽のように眩しい彼は、やっぱりわたしの手に入らない。それが悔しくて、しゃがみ込んだ。ピンクの地面が、色褪せて見えた。
4/9/2024, 11:52:52 AM