秋月

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『貴方の小説が私の生きる意味です』と言う、熱烈なファンレターを貰ったことがある。そのときは確か、長編の何冊にもわたる物を定期的に刊行していた時期で、それを読んだのは完結編が出たあとの事だった。
もとよりこういった長編でもなければ、定期的な刊行など行えた試しはない。アイデアが湯水のように湧き出て、筆が止まることもないような人間でもなければ、シリーズが完結してしまえばその次に出る本は何時になるのかとこちらが聞きたいぐらいだ。

だから、……だから。二年ほどの間を開けてようやく書き上げた新作が、発売されて少したった頃。今回の本にもファンレターが届いていると、担当に貰ったいくつかの手紙のなかにあった、可愛らしい花柄の便箋に綴られた言葉を見て。
『貴方の作品を娘が大好きでした。新刊が出る度に今回はここがよかった、あの話が伏線になっていたなんて、と。とても楽しそうに話してくれました。娘は重い病気で、毎日が死と隣り合わせで明日にはもう目が覚めないかもしれないと不安ばかりでした。そんな不安がる私に、娘は先生の新しい作品を見るまでは死ねないわと笑い、また楽しそうに話し始めるのです。この手紙は娘の代わりに書いています。最期に最新刊が読めて幸せだと微笑んで逝きました。先生のこれからの活躍を心より祈っております』
私の小説が生きる意味だと言うのなら、新しい作品がでなければその意味が無くなってしまうのではないか。あのファンレターを読んでからいつも頭の片隅で考えていたことだ。その結末がこれなのだろう。

霞む視界に少女の幻想が見えた気がした。

4/27/2023, 10:42:28 PM