小砂音

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#54 幸せに

幸せに名前をつけてはならない。
そう遠くはない近くで、
ごくたまに思い出せるくらいに留め、
ぼんやりと不確かにさせているのがいい。

幸せの名を呼んではならない。
名前を呼んでしまえば最後、
渇望あるいは退屈がくるりと振り返り、
死ぬまで追いかけて来る。

幸せは、お化けのようなものなのだ。

それでももし幸せを掴んだのならば、
ゆっくりとでも、離さなければならない。
いや、厳密に言うならば、喰われる前に、
ふわりと広げて、まとっていなければならない。

まとったそれを、細々と、ちんまりとでも、
時に大胆に分け与えていけたならば、
そのお化けは本当の幸せになって
死ぬ間際にだけ、笑いかけてくれるのだ。

なんと取り扱いの難しいものだろうか。
それでも。だからこそ。
私は幸せになりたい。

3/31/2024, 2:40:18 PM