「あ」
思わず声を出した後、相手は自分のことを知らないのだと思い至る。
「……なんですか?」
カールした毛先が揺れる。落ち着いた髪色の他校生。俺は彼女を知っている。うちの女生徒で彼女の写真を持っている子がいたからだ。
「あー……もしかして、恋人にプレゼント?」
彼女が見ていたのは、マニキュアとリップグロス。
"恋人"という単語に、彼女は肩を揺らした。
「……プレゼントですけど、恋人にではないです」
「ああ、そうなの」
「そういうあなたは、恋人にプレゼントですか?」
まだ付き合ってないんだ、と微笑ましく思っていると、思わぬ質問が飛んできた。俺の手元、キーホルダーを見て彼女は首を傾げている。
「俺も、恋人じゃないけどプレゼント予定」
「そうですか。喜んでくれると良いですね」
「ん、君もね」
じゃあ、と彼女は選んだマニキュアとリップグロスを手に、レジへと走っていった。
「初々しいねー」
うちの女生徒が彼女の選んだものをつける姿を想像し、負けるな、と言いたくなる。
もしかしたら周りから非難されるかもしれないけれど、あれくらいの歳の子は自分の好きに素直な方がいい。俺の場合は、ちょっと青春から離れすぎてしまっているけど。
「いい加減あいつに向き合わなきゃいけないよなぁ」
先生、と寄ってくるあいつに、俺なりの返事をしなければ。
3/4/2024, 1:44:05 PM