芽吹きのとき
むずむず、そわそわ、うずうず。最近どうにも落ち着かない。
ずっと冷たかった頭の上の方が、なんだかじんわりとあたたかいんだ。
周りの生き物たちも、ガサゴソとせわしなく何かの準備を始めている。
その時、遠くから誰かの話し声が聞こえた。
もうすぐだね
いよいよだね
たのしみだね
そして僕は理解した。
芽吹きのときが来たらしい。
僕は嫌だな、と思った。
だって怖いんだもの。
うわさによると、外の世界はすごく広くて明るくて、危険もいっぱいなんだって。
ここは確かに暗いけど安全で、いつだって僕を包み込んでくれるのに。
だけど日が経つごとにあたたかさは増して、それにつられるように僕の体は上へ上へと伸びていった。
下手くそなうぐいすがケキョ、と鳴いたある朝。ついにその時は来た。
頭の先が何かを突き破るような感覚。そして
──まぶしい!!
衝撃とともに、僕は初めて外の世界に出た。
心地よい風が「ようこそ」と僕を撫でながら吹き抜けていく。
外の世界は明るくて、広くて。
空気が気持ちよくて、朝露が色々な場所でキラキラと光っていて、美しかった。
本当に美しかった。
気付けば二本足の大きな生き物が近くに来て、僕をじっと見て、
「ああ、もう出てきたのか。春だね」
僕のことを春と呼んだ。
3/2/2025, 1:58:37 AM