ミミッキュ

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"神様へ"

 早朝の散歩中、小さな神社の前で足を止める。
 ハナに出会う前、通る度にお参りしに来ていた神社。
 まるで外界から切り離されているかのような出で立ちの鳥居と、奥にある小さな本殿と、その二つを結ぶ参道。まるで自然の要塞のように、周りを木々が鬱蒼と茂っている。
 久しぶりにお参りして行こうと鳥居の前に立ち、礼をする。先程までぴょこぴょこと歩いていたハナがピタリと動きを止めて、俺が端の方に移動して進むと、慎ましやかな歩きで俺に合わせて歩を進める。
 ここが神聖な場所だと、本能で理解したのだろう。
 短い参道の端をゆっくり歩きながら賽銭箱の前に立つ。財布から十円玉を出して賽銭箱に投げ入れ、中に入ったのを確認すると上からぶら下がっている縄を手に取り大きく振って、上に付いている大きな鈴を鳴らして、静かにゆっくり二礼。
 上体を起こし、ぱん、ぱん、と小気味良い拍手を二回鳴らす。手を合わせ目を閉じ、顔を伏せる。聞こえるように丹田に力を入れ口を開き声帯を震わせる。
「ハナがこれからも健やかに過ごせますように」
 自身の声が小さな神社の中に響き渡る。自分でも驚く程に良く通る声だった。
 そしてゆっくり一礼。
 上体を起こして背筋を伸ばし、足元で置き物のように静かに待つハナを見据える。俺の視線に気付いたのかこちらを見上げてきて、ハナと俺の視線がかち合う。
「みゃあん」
 ハナの鳴き声が、微かな木の葉の擦れる音と共に響く。
「散歩の続き行くぞ」
「みゃん」
 ハナの返事を聞いて身を翻し、再び参道の端を歩き鳥居の外に出て、散歩を再開した。

4/14/2024, 1:22:02 PM