わをん

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『幸せに』

お気に入りのパン屋さんの近くに開運ショップがある。スピリチュアル好きな人に受けのよさそうなパステルカラーな内装に開運!とか幸せを呼ぶ!とかワード強めなPOPとパワーストーンのブレスレットや置物、ドリームキャッチャーやナザールボンジュウなんかがいろいろと並んでいる。意外なことにそこそこ繁盛しているらしい。
「あそこはなんで人気なんですかね?」
「あぁ、なんか占い師さんがすごいらしいわよぉ」
パン屋のおかみさんが言うには店主の占いとアドバイスの評判がよく、予約がなかなか取れないそうだ。
「みんな幸せになりたくてああいうところに行くのかもしれないけど、幸せなんてそのへんにけっこう転がってるんじゃないかしらねぇ」
焼き立てのパンを紙袋に詰めながらおかみさんがしみじみと言うのでほんとですね、などと相槌を打つ。
焼き立てを今すぐ食べたい欲に駆られてしまったので開運ショップの前を通り過ぎ、近くの公園へ行く。紙袋からまだ熱いぐらいのバターロールを手に取ってそれを割り、湯気混じりのバターの香りに包まれながら小麦の味を噛み締める。
「……幸せ」
バターロールひとつで幸せになれるというのに、紙袋の中にはまだバターロールがある。もう一つ食べるかどうかを悩む時間もまた幸せだった。

4/1/2024, 4:18:43 AM