作家志望の高校生

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森の中で静寂に耳を傾けるのが、私の趣味である。
勿論、都会の街中に溢れている、人々の生命力に満ちた喧騒だって悪くはない。
たまには、私もそれを聴きに祭りなんかへ足を運んだりもする。
けれど、やっぱり私が落ち着くのは、湖の微かな波や小鳥たちのさえずりが作る、あの静寂なのだ。
静寂とは、僅かな音によってできていると、私は思う。
本当の静はあまりに恐ろしい。
その場に自分一人取り残され、世界から切り離されてしまったような錯覚さえ覚える。
他者の気配が、世界の理が鳴らす僅かな音こそ、「何もない」という真の平和を知ることのできる心地良い静寂だと思うのだ。
私が趣味に使う森は、大抵が私の家の裏にある寂れた森だ。
昔は集落もあったらしいが、数年前にそれも途絶えた。
そんな、誰の気配も無くなった森。そこから、最近少し変わった音がするのだ。
まだ声変わりを迎える前の、少年らしい愛らしさの残るボーイソプラノ。
聖歌をなぞるその声は、少し調子外れで、有り体に言えば音痴だった。
気になって、森を探ってみた事がある。
そこで、私は出会ったのだ。
もう誰もいなくなってしまった、寂しい村の中に残る荘厳な建物。古い教会だ。
朽ちてはいるものの、未だその神聖で清廉な空気は廃れていない。
少し苔の生えたステンドグラスは、それでも光を受けてキラキラと光っていた。
灰がかった色にくすんだ教会をステージとして歌っていたのは、少年聖歌隊の隊員らしい男の子だった。
可愛らしい顔立ちの子で、薄く見えるそばかすが素朴な愛嬌を醸し出している。
彼は、聖歌隊の中で一番歌が下手な自分が嫌で、こうして静かなこの場所でこっそり練習していたのだという。
それから、私の趣味に、彼の練習に付き合うことが加わった。
やっぱり調子外れで、音も所々外れていて、しかしそれが可愛らしく、愛おしい。
幼い調子の聖歌を聴きながら、森の中、一人で耳を澄ませていたあの日の私に、ほんの小さな礼をした。

テーマ:耳を澄ますと

5/5/2026, 9:02:29 AM